ホーム

ブログ

Risk of Ruin(破産確率)

ポートフォリオ単位のサバイバル指標。Edge が機能するより前に、口座が定義した Drawdown のしきい値に達してしまう確率です。

読了 12 分Tradeways#リスク#ポジションサイズ

Risk of Ruin(RoR、破産確率)とは、統計的な Edge が機能するより前に、口座が定義した Drawdown のしきい値に達してしまう確率です。Trade ごとの MAE に対応する、ポートフォリオ単位の指標と言えます。MAE は 1 件の Trade がどれだけの含み損(Heat)を吸収できるかを示します。RoR は、口座が口座でなくなるまでにどれだけの Heat を吸収できるかを示します。

Risk of Ruin が実際に測るもの

RoR は、1 つの問いに対する閉形式の答えです。すなわち、ある Edge、Trade ごとのリスク割合、Drawdown のしきい値が与えられたとき、そのしきい値に達する確率はどれくらいかという問いです。まったく同じ戦略を運用する 2 つのデスクでも、RoR の値は大きく異なり得ます。戦略は長期的な収益性を決めます。サイジングは生き残れるかどうかを決めます。

どんな Edge にも負けの連続は生じます。勝率 55% のシステムでも、5 回、6 回、7 回と連敗が並びます。独立したベルヌーイ過程とはそういうものだからです。連敗そのものは欠陥ではありません。欠陥は、分布が平均回帰するより前に Drawdown のしきい値を突き破るような Trade ごとのリスク割合で、その連敗を受けてしまうことです。

計算式(Vince 近似)

正規化した Edge を用いた固定ベットサイズの場合、標準的な近似式は次のとおりです。

RoR = ((1 - Edge) / (1 + Edge)) ^ U

ここで U は、現在の Equity と破産しきい値のあいだにある資本ユニットの数(口座サイズを Trade ごとのリスクで割り、破産とみなす Drawdown に合わせてスケールしたもの)です。Edge は非対称なペイオフに合わせて正規化されます。

Edge = (WR × RR − LR) / (WR × RR + LR)

ここで WR は勝率、LR は負け率、RR は平均利益を平均損失で割った値(R倍数)です。これが Vince 形式です。対称的な 1:1 の損益では Edge = WR − LR に簡略化されます。この閉形式はサイジングの意思決定に適したツールであって、テールを正確に見積もるためのものではありません。正規分布に従わないリターン分布には、モンテカルロ法を使ってください。

計算例。 戦略:勝率 55%、平均利益 1.5R、平均損失 1R。

Edge = (0.55 × 1.5 − 0.45) / (0.55 × 1.5 + 0.45)
     = (0.825 − 0.45) / (0.825 + 0.45)
     = 0.375 / 1.275 ≈ 0.294

Trade ごとのリスク 1%、Drawdown しきい値 20% のとき、U = 20 / 1 = 20 ユニットとなり、RoR = (0.706 / 1.294)^20 = 0.5456^20 ≈ 0.05% です。Trade ごとのリスクを 5% に上げると U = 4 となり、RoR ≈ 8.9% になります。戦略は変わっていません。それでも生存確率は 2 桁以上も崩落しました。

なぜ曲線は線形でないのか

Trade ごとのリスクを 2 倍にすると、RoR は 2 倍を超えて増えます。それがこのグラフの肝です。

計算式の指数は、破産までの資本ユニットの数です。リスクを 2 倍にするとユニット数は半分になります。底は 1 より小さいので、指数を半分にすることは「半分にする」ことではなく「平方根を取る」ことに相当します。つまり RoR は、U が半分になるたびにおよそ 2 乗されていきます。曲線は Trade ごとのリスクがおよそ 1〜2% までは 0 付近に張り付き、その後で急激に上向きに折れ曲がります。3% を超えると、強い Edge でも RoR を機関投資家基準の 1% という上限に抑えるのは困難になります。

Trade ごとのリスク割合の関数としての Risk of Ruin。3 つの Drawdown しきい値について、y 軸を対数スケールでプロットしたもの
3 本の曲線、3 つの Drawdown しきい値、1 つの Edge。Trade ごとのリスク約 2% 以降のホッケースティック形状は、見栄えの問題ではなく構造的なものです。

RoR と MAE のつながり

計画したリスクと、実際に負ったリスクは、同じ数字ではありません。MAE の分布が広いということは、スリッページやスプレッドの拡大、ニュース時にストップが飛ばされるといった形で、Trade が日常的にストップの想定枠を超える Heat を吸収しているということです。実効的な Trade ごとのリスクは、計画したリスクに MAE 分布の右側のテールを加えたものです。計画上の数字を RoR に入れると、破産確率を過小評価することになります。

MAE と RoR は同じダッシュボードに並べるべき指標です。MAE は Trade ごとに、ストップが実際どれだけクリーンかを監査します。RoR はそのポートフォリオ単位での帰結です。MAE をタイトにすれば、サイジングのルールを 1 つも変えずに RoR が改善します。

実践的な一手:「破産」を再定義する

破産とは残高がゼロになることではありません。破産とは、それを超えると戦略を実行できなくなる Drawdown のことです。あるトレーダーにとってはそれが 30% です。多くのプロにとっては 20% 前後です。プロップ口座では外部から設定され、たいてい 5〜10% です。

進め方は、まず Drawdown のしきい値を固定し、そこから Trade ごとのリスクを逆算することです。0.29 の Edge と 20% の Drawdown しきい値で RoR を 1% 未満に抑えたいなら、0.5456^U = 0.01U について解きます。すると U ≈ 7.6 となります。Trade ごとのリスクは 20 / 7.6 ≈ 2.6% に収まります。しきい値を 10% に下げると、Trade ごとの最大リスクは 1.3% まで落ちます。Edge が半分になれば、Trade ごと 1% でさえ攻めすぎに見えてきます。

実践で意味を持つのは、この逆算した形です。Trade ごとのリスクを先に選んで RoR がいくつになるかを見るのではありません。求める生存確率と、耐えられる Drawdown を先に選び、そこから Trade ごとのリスクを読み取るのです。

よくある誤読

デスクがこの計算を初めて回すときに必ず現れる落とし穴をいくつか挙げます。

  • 独立性を前提にしてしまう。 この計算式は Trade どうしが独立だと仮定しています。相関のあるポジション(同じ価格帯での 3 つの NQ ショート、USD に対する 4 つの FX ロング)は、負け Trade が固まって出るため U を崩壊させます。相関のあるポジションは、複数ではなく 1 つのサイジング単位として扱ってください。
  • ペイオフ抜きの勝率。 勝率 70% は安全に見えますが、平均利益が 0.5R で平均損失が 1R だと気づくまでの話です。命中率より R倍数のほうが重要です。生の勝率ではなく、正規化した Edge で計算してください。
  • マーチンゲール/逆マーチンゲール手法への適用。 この形の RoR は固定比率サイジングを前提にしています。負けたあとにポジションを倍増させたり、伸びている玉にスケールインしたりするとベットサイズは固定でなくなり、閉形式は当てはまりません。そうした手法はシミュレーションしてください。閉形式は体系的に嘘をつきます。
  • バックテストの勝率を使う。 バックテストは、スリッページの無視、ルックアヘッドバイアス、過剰最適化によって WR を体系的に過大評価します。直近 100 件のライブ Trade が実際に示した、悲観的な勝率を使ってください。

これをどう使うか

RoR がダッシュボードに載ったら、具体的な一手は 3 つあります。

第 1 に、ポジションサイズを決める前に生存目標を決めること。RoR 1% がリテールの上限です。0.1% がプロのデスクが位置する水準です。5% を超えるものは構造的な問題であり、エントリーの改善では一切直りません。

第 2 に、逆算した計算式を毎月回すこと。Edge はドリフトします。戦略は劣化します。前四半期に安全だった Trade ごとのリスクが、今四半期も安全とは限りません。戦略が新しかった頃に覚えている Edge ではなく、直近 100 件の Trade の実際の Edge で計算し直してください。

第 3 に、この数字を MAE と組み合わせること。RoR 単体は、数学が何と言っているかを教えてくれます。MAE は、現実が数学からどれだけずれているかを教えてくれます。計画リスクではなく実効リスクに合わせてサイジングすれば、曲線は正直になります。

関連

  1. Maximum Adverse Excursion (MAE)

    Tradeが耐え抜いた最大の含み損と、あなたのMAE分布が「Stop Lossが本当に機能しているか」について語ること。

    読了 8 分
  2. MFE、MAE、MCEの読み方

    決済済みのトレードはすべて、3つの数字で語られます。どこまで伸びたか、どこまで逆行する恐れがあったか、そして手仕舞ったあとに何が起きたか。この3つを合わせれば、あなたのエグジットが構造的なものだったのか、それともただ運が良かっただけなのかが見えてきます。

    読了 6 分
  3. Maximum Favorable Excursion (MFE)

    トレードをクローズする前に到達した最大の含み益。そして、そこから実現損益までのギャップがエグジットについて何を物語るのか。

    読了 9 分

Tradewaysを改善するため、分析を含むCookieを使用します。 · プライバシー